まだ咳き込みつつ
熱も下がったし、体力も回復しているけど、まだ咳が少し。もう一息か。
忘れないうちにメモ。
11日土曜日、午後から東武練馬(東上線)。十七世紀英文学会東京支部例会@大東文化会館。
今回はThomas Traherneと early moden manuscript culture の話。トラハーンは、17世紀の形而上派詩人や宗教詩人を研究している人には結構有名なようだけど(そういえば、ニコルソンの『円環の破壊』では結構言及されている)、同時代的にもマイナーで、それは生前に活字で出版された作品がほとんどなかったせいらしい。その一方で、彼の自筆の原稿が19世紀末〜20世紀にかけていくつも発見されたことで、初期近代の活字出版文化の裏側にある、「手稿文化」の一端を知るための重要な作家となっている様子。彼の原稿の「発見」の逸話なども、たまたま古本屋で発掘されたとか、ごみ焼却場で燃やされそうなところを間一髪で救い出したとか、ステキ。
近年、初期近代の活字出版文化についての研究は盛んで、印刷業者、出版業者、書籍商、貸本屋などの果たした役割についての研究は積み重ねられている。テクストは「作者」と「読者」だけのものではないわけだ。今年の5月の英文学会でも、その方面のシンポジウムがあった。聴けなかったけど。その一方で、かつては活字出版文化の隆盛によって「滅んだ」ものと見なされていた「手稿文化」についても、実は初期近代において重要な文化の一側面であったことが、今では再評価されている。その場合には、作品の読み手は親しい友人やパトロンなどの限られたサークル内部となり、時には回覧の過程で複数の「読者」の手が入ったりもする(「読者」と「作者」の区別の曖昧化)。今回の発表でも、トラハーンの手稿のマージンへの書き込みに注意が払われた。しばらく回覧されてから、何らかのきっかけで活字として出版されることもあれば、トラハーンの多くの作品のように、そのまま眠って、「発見」されるのを待つものもある。(もちろん、そのまま眠り続けている、あるいは歴史の闇に消えてしまうものも大量にあるだろう。)とかく、はじめから活字出版を念頭に書かれたものとは事情が異なるわけで、そのあたりをきちんと意識する必要があるわけだ。
ドライデンの場合には、彼は概ね自作は活字出版することを念頭において書いていたはずだし、さらに晩年には印刷出版業者Jacob Tonsonと組んで、様々な出版企画を立てたりしている。イギリスの活字出版文化に「詩のアンソロジー」というものを定着させたのは、この二人だと言ってもいいのではないかと思われる。彼は活字出版文化にどっぷりで、それを利用して自らの文壇での地位を確立したという側面があるだろう。(特に、名誉革命で桂冠詩人の座を明け渡して以降。)
近年の初期近代手稿文化に関連したものでは、例えば、以下のような研究が重要なもの。
English Manuscript Studies, 1100-1700
- 作者: Peter Beal,Jeremy Griffiths
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Index of English Literary Manuscripts: 1625-1700, Part 1 : Behn-King
- 作者: Peter Beal
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Index of English Literary Manuscripts: 1625-1700,Part 2 : Lee-Wycherley
- 作者: Peter Beal
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Scribal Publication in Seventeenth-Century England
- 作者: Harold Love
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The Culture and Commerce of Texts: Scribal Publication in Seventeenth-Century England
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Bibliography and the Sociology of Texts
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さて、その翌日12日は、昼に有楽町。ノエル・カワード作、ジョン・ケアード演出『私生活』@シアタークリエ。
出演は、内野聖陽、寺島しのぶ、中島朋子、橋本じゅん、中澤聖子。4人の男女の繰り広げるドタバタ喜劇(?)。ああいうのって、シェイクスピア喜劇以来の伝統的な英国喜劇のあり方かなと思ったり。プロット的には、どんでん返しがあるでもなく、おそらく多くの観客が想像したであろう結末になるのだけど、それがビシッと決まって、その瞬間客席から大きな拍手。あの瞬間は舞台にいる方もすごく気分がいいのだろうな。