電車での移動の際には(眠くなければ)新書を読むことが多いのだけど、最近読んだのは↓
著者はロシア現代史や比較政治論が専門とのこと。第一章で「ネイション」「民族」「国民」「
エスニシティ」といった言葉/概念の日本語での意味範囲、および「ネイション」に該当する英語、仏語、独語、露語の言葉のそれぞれの意味範囲を確認し、その上で第二章以降では現代史上の「
ナショナリズム」をめぐる問題を、さまざまな事例に即して解説するもの。地理的範囲としては、イギリス、フランス、ドイツ、イタリア、ロシア/
ソ連、東欧の旧共産圏、東南アジア、南アジア、トルコ、中東、中国、日本、
ラテンアメリカ、などなど広い。ただし著者も「あとがき」で認めている通り、この場合とても重要であるアフリカの事例は取り上げられていないし、
ラテンアメリカについても相対的に記述が少ない(別にそれが「欠点」だというのではなく、ただのないものねだり)。その分、著者の専門領域であるロシア/
ソ連および旧共産圏については詳しい。それが、例えば
ベネディクト・アンダーソンが
インドネシアと
ラテンアメリカを重視しているのと比べた場合の、本書の特徴でもあるのだろう。
もちろん新書であることによる種々の制約はあるわけで、決して網羅的というわけではないし、著者も書いているように、それぞれの地域の専門家からすればいろいろと批判したい点もあるのかもしれない。それでも現代史の主要な流れはつかめるし、第一章での諸概念の整理などもとても勉強になる。記述も平明かつ慎重という印象を受ける。新書にも関わらず参考文献も多く挙げてあるし、いい本ではないかと。
もう一冊↓
これはこの方面ではもはや「古典」だけど、いまごろになってやっと。著者は近代イギリス経済史の専門家。実際にインドを訪れて経験したエピソードを、経済史家らしい学識を交えながら記したもの。本書の記述は1970年代初頭までのインドの状況、およびイギリスとインドの関係なので、その後の30数年のことはまた別に勉強しないといけないけど、当時ならではの植民地支配が残した爪痕の生々しい記述などはとても印象的。