『パイパー』
夕方から渋谷。
野田地図(NODA MAP)第14回公演『パイパー』@シアター・コクーン。
作・演出・出演は野田秀樹。出演者は、松たか子、宮沢りえ、橋爪功、大倉孝二、北村有起哉、田中哲司、小松和重、佐藤江梨子、コンドルズの面々、その他その他。
舞台は地球人が移住して数百年後の火星。移住に際して「幸せ」を数値化するシステムを構築し、その数値の上昇を目指したはずの人間の火星社会は、すでに荒廃し末期状態。それはなぜ、という話。野田作品らしく過去と現在の入り混じった物語展開だけど、過去の話は記録の再生という形を取るので、その辺りはわかりやすいし、一昨年の『ロープ』のプロレスのリングがヴェトナムの戦場になるような驚きはない。その分、「千年かけて自滅していく幸せ」(パンフレットでの野田の言葉)という主題はみえやすいか。それに、「過去」や「歴史」を知ること、向かい合うこと、知らぬ振りをすること、意図的に操作すること、そういったことが直接的に問題になる。まあ、それを言えば、『贋作・桜の森の満開の下』だって、「国家の歴史」がどのように作られるかという話でもあるわけだけど。あれは「クニ」を創るにはそこから排除される「オニ」も創られる必要があるという話なわけで。(その間に「カニ」がいるのがまことに野田らしいのだけど。)
もうひとつ大きな問題は「食人」だけど、これは『赤鬼』でも扱った問題。そういえば野田が高校生の頃にはじめて自分で書いて上演した舞台が確か武田泰淳の『ひかりごけ』を基にしたものだったわけで、このテーマは骨絡みか。どれも極限状況での「食人」なわけだけど、『赤鬼』と『パイパー』ではどちらも共同体のあり方自体と関わるもの。「食われる」のが共同体の外部からやってきた「他者」であるか、もともとは共同体の内部にいた人間であるかの違いは大きいけど。
いずれにしろ、今回も堪能。宮沢りえは妊娠・結婚ときてこれから出産・育児となるから、しばらくは舞台には出ないかもしれないので、その前に観ておけてよかった。