「新世界」と「旧世界」

ドライデンの Aureng-Zebe は、ドライデン研究プロパーにおいては比較的マイナーで、しばしば「ドライデンがヒロイック・カプレットを用いて書いた最後の英雄劇」として言及されるに留まる場合もある。理由はいろいろあるのだろうけど、単純にあまりヒットしなかったということが大きいのかな。とはいえ18世紀にも何度か再演された記録があるようだし、全くの失敗というわけでもないのだろうけど。

ということで、この作品を扱うとしたら、James A. Winn, Dryden and His World のような網羅的な研究書か、Derek Hughes、Anne T. Barbeau、Eugene M. Waith のように「英雄劇についての研究書」が主だった。これが大体1980年代まで。

1980年代から90年代にかけては、あれだけ「ポストコロニアル」が言われ、初期近代研究でも盛んにそういうことが言われてきたけれども、その中心は「新世界」表象の研究であったわけで、そうするとこの作品の出番もない。その一種の「反動」として近年ではイスラム圏やその他のアジア、アフリカなどへの旅行記やそれに基づいた文学テクストに対する注目が集まるようになってきている。「リオリエント」という言葉が用いられたりもする。(ちなみに初期近代研究における「リオリエント化」とでも呼ぶものに関しては、末廣幹氏が早くからフォローしているし、今度の英文学会の「オリエント表象」シンポジアムも氏の案によるものと聞いている。)

その流れのなかでようやく(と言っていいと思うけど)Aureng-Zebe も陽の目を見ることになったわけで、その一番最近の例が、以前にも挙げたRos Ballaster で、10数ページだけとはいえこの作品をきちんと扱っている。ここでは例えば、ドライデンがこの作品を執筆するに際して主に参照した Francois Bernier のテクストと作品を比較して、ドライデンがいかに女性キャラクターの役割に重きをおいて芝居を作ったかを明らかにしたりしている。(この点、この人が「女性作家」の研究者でもあることと関係するのだろう。)

あとは、これも以前に挙げたけど、Bridget Orr のもの。これはこの作品が「帝国」(ムガール帝国)を舞台としたものだから、「帝国表象」として取り上げている。

他にないのかなと探していたら、この本↓の第4章が丸々Aureng-Zebe に当てられていた。

Old Worlds: Egypt, Southwest Asia, India, and Russia in Early Modern English Writing

Old Worlds: Egypt, Southwest Asia, India, and Russia in Early Modern English Writing

届いたばかりだけど、「旧世界」を扱ったさまざまな一次テクストを見つつ、Antony and Cleopatraでエジプト、Paradise Lostで中東(メソポタミア地域)、Love's Labour's Lost とミルトンのMuscovia でロシア、そして Aureng-Zebe でインド、と具体的な作品分析など行うというもののようだ。序論をちょっと見たら、いわゆる「ポストコロニアル批評」の成果を踏まえつつ、でも基本的な枠組みはウォーラーステインの「世界システム論」な感じ。


ということで、このあたりが最近の傾向か。全然違う問題を考えてみることもできるかもしれないけど、たぶん少し視点を変えるくらいになるか。

John Dryden and His World

John Dryden and His World

Dryden's Heroic Plays

Dryden's Heroic Plays

Intellectual Design of John Dryden's Heroic Plays

Intellectual Design of John Dryden's Heroic Plays

Ideas of Greatness (Ideas & Forms in English Literature)

Ideas of Greatness (Ideas & Forms in English Literature)

Empire on the English Stage 1660?1714

Empire on the English Stage 1660?1714

Fabulous Orients: Fictions of the East in England 1662-1785

Fabulous Orients: Fictions of the East in England 1662-1785