エストニア

昨日8日(木)、夕方からうちの大学にて、「エストニア×日本 ことば 翻訳 詩」というイベント。

ゲストはエストニアのタリン大学学長レイン・ラウド先生と若い同僚のラウリ・キツニック先生。ラウド先生は日本古典文学研究者にして詩人・小説家、キツニック先生は日本近現代文学研究者にして詩人。対する「日本代表」は、日本文学研究者にして詩人である藤井貞和先生。

もともと藤井先生とラウド、キツニック両先生とは交流があったようだが、このたび藤井先生の詩集のエストニア語訳が出版されるとのことで、それにあわせた来日である。ちなみに9月には藤井先生がエストニアへ行かれるとのこと。

で、今回は、まずラウド先生によるご自身の日本文学研究の一端についての講演、キツニック先生の自作の詩とその日本語訳の朗読、ラウド先生の小説の日本語訳での朗読、そして藤井先生の詩のご本人による朗読と、キツニック先生によるそのエストニア語訳の朗読、というイベント。その都度質疑応答などもあり、盛り上がる。

エストニアといえばバルト三国のひとつというくらいしかイメージのない国であったが、短い独立期間をはさみつつもロシア、ナチス・ドイツソ連に支配され、ようやく1991年に本格的な独立を果たしたばかりの国であり、民族問題や国境問題なども抱えた国である。今回のイベントでも、そのあたりの歴史的事情や、91年の独立に先立つ「運動」において、エストニアの民謡を歌う「歌祭り」が数十万人規模で行われたこと、いまでは国内で大規模な文学イベントも行われ、諸外国の詩人などを招いたりしていること、エストニア語による文学はそもそも潜在的な読者数が少ないので(エストニアの人口は百数十万人)、作家や詩人が筆だけで食べていくのは日本に比べても相当難しいこと、それゆえ今回来日の両氏のような「研究者にして詩人/作家」という立場の人間も少なくないが、むしろ「大学に籍をおいている詩人/作家」という立ち位置であること、現大統領をふくめ「政治家」にも詩人や作家が結構いることなど、興味深い話が聴けた。

朗読されたエストニア語(ドイツ語に似た感じ)はもちろん私にはわからないけど(内容は日本語訳で教えてもらったわけだけど)、とりあえず耳で聞いてかっこいい言葉ではあった。もちろん、朗読されたのが「詩」であったことも大きいだろうが。

いずれにしろ、普段ぜんぜん馴染みのない国の話を聴くのはおもしろかったし、エストニア人が『伊勢物語』を語るのを聴くことなど今後ないかもしれないので、貴重な経験ではあった。