2015年冬

ほんと、何の意味があるのかということだけど、とにかく記録だけ。

1月25日(日)、劇団鹿殺し復活公演『ランドスライドワールド』@本多劇場。初鹿殺し。作:丸尾丸一郎、演出:菜月チョビ。出演は丸尾丸一郎、木村了、オレノグラフィティ、山岸門人、今奈良孝行、美津乃あわ、他。世界は小さくて大きくて 近くて遠くて 無意味で 尊い

2月12日(木)、蜷川幸雄80周年記念作品 ニナガワ☓シェイクスピア レジェンド第2弾『ハムレット』@彩の国さいたま芸術劇場。出演は藤原竜也満島ひかり鳳蘭平幹二朗満島真之介横田栄司、他。なんというか、腑に落ちないことがいくつか(いや、悪いってわけでもないのだけど)。それはともかく満島ひかりは小顔だった。あと、印象だけだけど、藤原竜也は昨年の『ジュリアス・シーザー』以来、ちょっと演技が変わったような気がした(気のせいかも)。

2月14日(土)、柿喰う客の「女体シェイクスピア」シリーズ第7弾『完熟リチャード三世』@吉祥寺シアター。女優7人のみ(リチャード以外は一人3、4役)、80分で『リチャード三世』をやる、ということで、メリットもデメリットもあるのだろうけど、女優陣はとてもよく、私は面白く観劇した。このシリーズはいつも大胆な翻訳や演出をするけれど、今回、"A horse! a horse! my kingdom for a horse!" というあれの"a horse"を、意味を無視して音だけとって「アホ」にしたところはのけぞった。なんだか潔いくらいですわ。

2月16日(月)、シアタートラムで『マーキュリー・ファー』を。作:フィリップ・リドリー、演出:白井晃、翻訳:小宮山智津子。出演は、高橋一生瀬戸康史中村中水田航生小柳心、小川ゲン、半海一晃千葉雅子。なんか、やばいもの観ちゃったな、という感じ。いろいろなものが終わっていく感じは、嫌いではない。

2月19日(木)、パルコ劇場にて福原充則作、河原雅彦演出の歌謡ファンク喜劇『いやおうなしに』。O.L.H.(元・面影ラッキーホール、元・Only Love Hurts)の楽曲を使った「音楽劇」で、まあ、そういうものなので「ひどい世界観」(プログラムでの古田新太の発言)である。それにしても、「面影ラッキーホール小泉今日子高畑充希が歌う」というのは、かつての『労働者M』(作・演出ケラリーノ・サンドロヴィッチ)における「小泉今日子堤真一筋肉少女帯(というか空手バカボン)を歌う」と同じくらいの衝撃であったが、そう思うと小泉今日子を改めて尊敬する次第。

2月22日(日)、中野で劇団Carta bianca 旗揚げ公演『真夏の夜の夢〜絡まる赤い糸〜』を。シーシアスとヒポリタの結婚とそれを祝うボトムたち職人のプロットをばっさりカットして、森にキャンプにやってきた男女「5人」と妖精たちに登場人物をしぼって、だいぶすっきりした構成に。若い男女のカップルふた組に加えて、オリジナル登場人物である5人目が、ボトムの役回りでティターニアに恋される。このあたりはうまく工夫していたかと。さらに、原作ではあくまでも外側から手を出して引っ掻き回す役割のパックも、三色スミレの「惚れ薬」によるドタバタに巻き込まれるかたちに。実は脚本と主演がゼミの卒業生なので身びいきもあるけれど、それでもとても面白くできあがっていたと思っている。今後もがんばってほしい。

2月23日(月)、加藤健一事務所『ペリクリーズ』@本多劇場。翻訳:小田島雄志、演出:鵜山仁。ガワーの語りが巧みで全体の「おとぎ話」感がうまく出ていたようで、だいぶ荒唐無稽で奇跡体験アンビ○ーバボーじみた(?)展開もOKとなるのであった。

2月27日(金)、チェーホフの『三人姉妹』(ケラリーノ・サンドロヴィッチ演出)をシアターコクーンにて。恥ずかしながらの初チェーホフ。ケラで三姉妹ものといえば『祈りと怪物』とか『わが闇』とか思い浮かぶけど、親密な関係にある複数の女性を中心においたものということであれば『フローズン・ビーチ』とかもそうかな、と。今回の余貴美子宮沢りえ蒼井優という三姉妹はさすがであったし、全般的にわかりやすくなるように台詞や演出など工夫もあったのだと思う(なにせ初なので比較対象がない)。あとは、なんというか、なにせあの三人のどこにも行けない閉塞感がすごい。結局イリーナも出ていけないような気がするし。それにしても、例えばジェーン・オースティンなんかでもそうだけど、「街に軍人さんたちが駐留する」ってのが一大事だってこともあらためてわかった。

3月4日(水)、有志で結成した「江戸文化を楽しむ会」の集まりで、初「お座敷遊び」。

3月13日(金)、笹塚ファクトリーにて、team Genius bibi 5th Act『ソウサイノチチル』(作・演出えのもとぐりむ)Black ver.を。タイトルにいろいろな語が含まれており、台詞に明示的なところでは「そうさ 命 散る」、「葬祭/相殺 のち 散る」であると言えるかと。ただ、そこには「父」(葬儀の対象であり、また生命保険で借金を相殺するのはこの父である)と、「血」(家族の隠喩として、ただし、必ずしも血縁のみが「家族」を形成するわけではないことも示されている)、さらには「知」(相手を知ること、理解すること)といった語も含まれていると言えるか。であれば、「チル」は「散る」(人の命と、そのアレゴリーとしての桜)と同時に「知(ち)る」ともなり(強引だけど)、『ソウサイノチチル』というタイトルの重層性がさらに高まることになるかもしれない。無理やり一文にすれば「桜とともに命散る父の相殺と葬祭の後(のち)に父と家族(血)を知る」、とか。いずれにしても、脚本、演出、ダンス、歌、役者陣それぞれよかったのではないかと。うちの卒業生Sさんもがんばっておりましたよ、と(まさかの制服女子校生役でこちらのテンションが無駄に上がった次第)。

3月29日(日)、日生劇場にて『十二夜』。翻訳:松岡和子、演出:ジョン・ケアード。出演は、音月桂小西遼生中嶋朋子橋本さとし、青山達三、石川禅、壤晴彦、成河、西牟田恵、宮川浩、山口馬木也。元・宝塚男役トップスターにヴァイオラをやらせるというのは、なるほど上手い手ではあった。成河のフェステもよかったし、全体によくできた上演だったと思う。

4月25日(土)、日生劇場にて『デスノート The Musical』。音楽:フランク・ワイルドホーン、演出:栗山民也。出演は、浦井健治柿澤勇人ダブルキャスト)、小池徹平唯月ふうか前島亜美(SUPER☆GiRLS)、濱田めぐみ吉田鋼太郎鹿賀丈史、他。レムの濱田めぐみが圧倒的であった。小池徹平はまだ可愛い。

5月3日(日)、池袋シアターグリーンにてカクシンハン『オセロー』Black ver. とWhite ver. 二本立て。翻訳:松岡和子、演出:木村龍之介。出演は、河内大和、真以美、丸山厚人、他。一日に2本はきつかったけど、どちらのヴァージョンも楽しめるものであった。ちなみに両ヴァージョン、「まったく別物」みたいな演出の違いがあるわけではなく、細かいところがいろいろ違ったり、一部の配役が違っている。Blackで、まさかの長渕にはビックリしたが、Whiteにはなかったり。

5月10日(日)、日生劇場で『嵐が丘』。脚本・演出:G2。出演は堀北真希山本耕史高橋和也、伊礼彼方、小林勝也ソニン戸田恵子。短い時間ですっきりまとまっていたかと。戸田恵子のネリーはさすがだし、堀北真希は顔が小さいし、ソニンちゃんはいつだってソニンちゃんだった。揺るぎなくソニンちゃんだったよ。そして思えば、この後に山本耕史堀北真希に猛アタックをしたわけだ。

5月16日(土)、武蔵野公会堂にてITCL第42回日本ツアー作品『ヴェニスの商人』。演出はポール・ステッピングズ。学生や同僚も一緒に。6人という少数の役者で(それぞれ複数の役を演じる)、舞台上は椅子と小窓の付いた衝立(ヴェニスの場面とベルモントの場面で両面を使い分け、窓からはいろいろなものや顔を出したり)のみで、シンプルながらも工夫をした作りに。あと、去年のロミジュリの時もだったけど、ここは歌がうまい。作品の幕切れでは、ポーシャとバッサーニオ、ネリッサとグラシアーノが楽しくダンスをする脇で、シャイロックは裁判での台詞(「生きる術を奪うことは、命を奪うのと同じ」云々)、アントーニオは作品冒頭の台詞(「なぜこんなにも気が滅入るのか」)を述べる。ハッピーエンドになりきらないかたち。やはり、この作品を上演する際には、結末でシャイロックとアントーニオ(あとジェシカ)をどうするか、そのあたり工夫が必要になるようだ。例えば、2004年のラドフォード版(アル・パチーノジェレミー・アイアンズ)、2007年のG・ドーラン版(市村正親西岡徳馬)、2013年の蜷川版(市川猿之助高橋克実)など。なんにせよ面白かったし、学生にもよい経験になったかと思う。また何か、あまり高くないもので良さそうなのがあれば、誘っていくことにしようね。

6月5日(金)、劇団鹿殺しロックオペラ彼女の起源』@シブゲキ。作:丸尾丸一郎、演出:菜月チョビ。出演は、菜月チョビ、石崎ひゅーい、丸尾丸一郎、オレノグラフィティ、他。菜月チョビは『ランドスライドワールド』では演出のみだったので、舞台上での演技を見たのは初めて。作品全体として、音楽・歌がとてもよいし、世代的にカセットテープの使い方がよろしい。

7月19日(日)、子供のためのシェイクスピアロミオとジュリエット』@あうるすぽっと。脚本・演出 :山崎清介、翻訳:小田島雄志。台詞を断片化していろいろな人物が喋る演出は、それ自体は面白いと思うのだけど、あれ、戯曲をちゃんと読んだとか、他の上演をいくつか観たことがあるとか、そういう客じゃないとわかりにくいんじゃないのだろうか。私なんかは、台詞のいちいちを、もともと誰のどういう台詞だったのかと考えながらの観劇になってしまったのだけど。ちなみに、最後、ジュリエットを霊廟に置き去りにするのなら、せっかく鍵を閉める音もさせたのだし、いっそ暗闇の中で彼女をしっかり発狂させるくらいやってもよかったのではないかと思ったり。さすがに残酷すぎるか。子供のための、だしな。

7月24日(金)、PARCO劇場にて『マクベス』を。演出:アンドリュー・ゴールドバーグ。出演は佐々木蔵之介、大西多摩恵、由利昌也。ナショナルシアター・オブ・スコットランド版。精神病院を舞台に、隔離された患者(佐々木蔵之介)が一人20役くらいで『マクベス』を再現する。役者って、演劇ってすごいのね、と思わされる。マクベスマクベス夫人なんかは二人で一人みたいな人物であるが、こうして「一人で二人」で演じるとその感覚がはっきりわかる(狂気だからあんまりわかっちゃいかんのかもしれないけど)。

8月1日(土)、世田谷パブリックシアターで『トロイラスとクレシダ』。演出:鵜山仁。出演は浦井健治ソニン岡本健一渡辺徹今井朋彦横田栄司小林勝也吉田栄作江守徹、他。ソニンちゃんはやはりソニンちゃんだった。(←とても賛美している)。公演プログラムによると、演出家は、「愛、信義、名誉、あらゆる「善きもの」が壊れる際の、「崩壊エネルギー」を極大にもっていくこと」を目標にしたという。うん、だいぶ大きかったなあ、という印象。なんだか「問題劇」だと言われ、どうにも「釈然としない」作品というイメージが先行するところ、以前に蜷川版を観たときに「ああ、なるほどこういう作品なのか」となんとなく納得していたのだけど、今回はあらためて「腑に落ちた」感じはしている。「感じ」なのでもう少し考えて言語化が必要だけど。ただ、うん、「なにを信じたらいいのかわからない」感じ、やはり「いま」の作品になっていたとは思う。そのあたり、いささか露骨な軍服風の衣装や、捕虜のオレンジの拘束衣からも方向性は見える。とはいえ、戯曲にかんしては、まあ、ドライデンが腹を立てて(?)「純粋な悲劇」に書き換えたくなったのもわからんではない。

8月14日(金)、赤坂ACTシアターにて劇団☆新感線35周年オールスターチャンピオン祭『五右衛門VS轟天』。劇団員や常連陣は安定の面白さだけど、今回参加の賀来賢人がよかったねえ。ティボルトのときとは大違いだ。とにかく楽しい時間。立ち見でもつらくなかった。

8月20日(木)、オックスフォード大学演劇協会来日公演『ロミオとジュリエット』@東京芸術劇場。学生たちと一緒に観劇。ロミオもジュリエットも女優が演じ、のみならずロミオは設定上も「女」である。つまりレズビアン版ロミジュリである。お互いに my wife と呼び合う脚色は、意外性があり、とても野心的であった。けど、その設定を生かし切れていなかったのではないかな、という気も。設定変更以外にも、もっと大胆な演出をしたらどうなっていたか。とはいえ、学生たちも喜んでくれたし、全体的には良かったと思う。

10月17日(土)、さいたま芸術劇場にて蜷川幸雄演出でオールメールの『ヴェローナの二紳士』。出演は溝端淳平三浦涼介高橋光臣、月川悠貴、正名僕蔵横田栄司、大石継太、岡田正、河内大和、他。いや、『ヴェローナの二紳士』って、ひでえ話だと思うんだけど、でもうまく上演するととても面白い。今回の上演では、月川シルヴィアと溝端ジュリア、二人の女のシーンがとてもよかった。悲劇に限らず喜劇においても男たちの暴力に満ちたシェイクスピアの世界だけど、そのなかで、この二人のシーンとか、『オセロー』のデズデモーナとエミリアの「柳の歌」の場面とか、女同士の結びつきが描かれる場面がきちんと見せられると、なかなか心が動かされるものである。あと、横田栄司はいいなあ、やはり。

11月10日(火)、東京宝塚劇場にて宝塚歌劇団星組公演『ガイズ&ドールズ』。宝塚ファンの学生たちと。久しぶりの宝塚であったが、劇場で観るとやはり楽しい。サラ(妃海風)とアデレイド(礼真琴)、やはり二人の女性のシーンがよろしい。

11月14日(土)、東急シアターオーブにて『プリンス・オブ・ブロードウェイ』。演出:ハロルド・プリンス、脚本:デヴィッド・トンプソン。「ブロードウェイ・ミュージカル名場面集」といった趣。知っている作品もあれば、そうでもないものもあったので、勉強にもなった。そして、柚希礼音はあの中に混ざってやるのは大変だったろうなと。

11月29日(日)、PARCO劇場にてパルコ・プロデュース『オレアナ』。作:デヴィッド・マメット、翻訳:小田島恒志、演出:栗山民也。出演は田中哲司志田未来。大学でのセクハラをめぐるあれこれなので、他人ごとではないと思いながら観劇。いろいろと面白い作品だと思ったけど、原作が1992年なので、現在では「セクハラ」や大学での学生との接し方についての意識がだいぶ異なってきているので、「これ、今だったら…」みたいのが初めからてんこ盛りである。志田未来は大きくなった。

12月13日(日)、パーセル作曲のセミオペラ『妖精の女王』@北とぴあシェイクスピアの『夏の夜の夢』をもとにしたもの。演出は宮城聰。音楽が素晴らしいのはもちろん、芝居部分では笑いも多く、全体と体楽しい上演だったと思う。オペラ業界のことにはとんと疎いのだけど、ソプラノのエマ・カークビーという人は相当な人だったようだ。

12月20日(日)、天王洲銀河劇場にてアラン・エイクボーン作の『とりあえず、お父さん』。演出:綾田俊樹。出演は、藤原竜也本仮屋ユイカ浅野ゆう子柄本明アンジャッシュのコントみたいな話。役者の力で、いささか無理のありそうな脚本を押し切った感じだけど、楽しかった。

12月21日(月)、文学座アトリエにて『白鯨』。脚本:セバスチャン・アーメスト、翻訳:小田島恒志、演出:高橋正徳。文学座の役者たちはさすがだし、脚本や演出も、メルヴィルの壮大な物語を小さな劇場空間に見事に凝縮していた。

12月28日(月)、PARCO劇場にてパルコ・プロデュース『ツインズ』。作・演出:長塚圭史。出演は、古田新太多部未華子、りょう、石橋けい葉山奨之中山祐一朗吉田鋼太郎。いわゆる「安全神話」などとっくに崩壊している日本、というか崩壊しつつある日本を描く。年末に観るにはいささか暗いけど、でも、まあ、そういうものだ。今年の観劇納め。

とりあえず舞台関係のみ。あとは12月23日(水)にリキッドルーム筋少ライブ。映画館は数回。映画はほとんど観てないなあ。来年はもっとアクティヴにいきたいね。