移動のお供

電車での移動の際には、座れればほとんど寝ているのだけど、寝ていないときは授業のテキストを読んでいるか、持ち運びに便利な小さな本を読んでいる。で、たまには読んだものの紹介。


先週読んだもの。

英文の読み方 (岩波新書)

英文の読み方 (岩波新書)

多読と精読から翻訳の一歩手前までということで、最終的に「正確な日本語に訳す」ことを目的に、どのように英語を読めばよいか、その指南書。単語の一語一語をおろそかにせず、同時に大きな視点を持ち、文脈からその一語一語に相応しい日本語を選んでいく、それは当たり前といえば当たり前、でもきちんと実践するのは難しいし、ましてやそれを人に対してきちんと説明するのはもっと難しい。それを、長年『英語青年』の「英文解釈」コーナーを担当なさっている著者が、丁寧に実践と説明をしてくれている。私なんかにとっても大変勉強になるし、ある程度のレヴェルの学生さんにもお勧めできるかもしれない。


そういえば、かつて翻訳ワークショップでT山先生が、「英文を読んで、述べられている内容はわかるけどうまく日本語にならない、これは英語力ではなく日本語力の問題だ、ということを言う人がいるが、それは結局英語が理解できていないのだ」(大略)ということを仰っていたけど、それと同様なことが本書でも言われているということか。


もう一冊先週の移動中に読んだもの。

喜劇の手法 笑いのしくみを探る (集英社新書)

喜劇の手法 笑いのしくみを探る (集英社新書)

刊行当時にすぐに手に入れておきながら、実は通読していなかったので、遅まきながら。「喜劇の技巧について論じることが大好き」(「あとがき」215頁)という著者による、喜劇の技巧について論じた本。観客と登場人物(あるいは劇中の出来事)との「距離」が、喜劇的効果にとっては決定的に重要な要素であり(その点が、観客が登場人物に感情移入することを必要とする悲劇やメロドラマとの違いだとされる)、その「距離」を生み出すために喜劇は様々な技巧を用いているのだと。そこでは、登場人物たちが持っている情報(認識)と観客のそれとの間のズレが重要となり、そのズレを生み出すための道具立て(喜劇によくある、変装や双子の登場によるアイデンティティの混乱、ドラマティック・アイロニーバーレスクなどなど)が、古今の西洋の喜劇を素材に論じられる(日本の喜劇を扱っていないことについては「あとがき」で説明がある)。


この本で扱われている作品は、ギリシャ喜劇から現代の英米の喜劇まで幅が広いので、読んだことのあるものの方が少ないのだけど、それでもすいすいと読み進められるのは、それぞれの作品の筋や場面設定の要約の仕方が的確だからなのだろうと思う。私もドライデンの作品とかもう少しうまくまとめられるようにならないといけないなと。


そして、今週の移動のお供はこれ。

Seventeenth-Century Literature And Culture (Introductions to British Literature And Culture)

Seventeenth-Century Literature And Culture (Introductions to British Literature And Culture)

小さい本で、本文は100ページほど。おおむね1603年から1688年までを対象に、第1章が"Historical, Cultural and Intellectual Contexts"として、ポピュラー・カルチャーとエリート・カルチャー、政治と宗教、科学と哲学、といった話。第2章が"Literature in the Seventeenth Century" として、代表的なジャンルと作家の話。第3章が"Critical Approaches" として、批評史の概観と近年の批評動向としてフェミニズムジェンダー批評とクィア批評、文化唯物論と新歴史主義、ポストコロニアリズムあたりの話。最後に年表、簡単な用語集、コメントつきの参考文献。この分量でこれくらいの内容の幅のあるものというと他に知らないので、今まで多少なりとも勉強したことの復習のために丁度よいかと思われ。と思って読み始めたら、初めて知るようなことも多く(完全に忘れていた知識もあるのだろうけど)、復習どころか初学者の気分。