ゆっくり
そろそろ授業も終わりが近づき、試験の作成や来年度のことなど考える時期。シラバスの締切が遅めで助かる。
そんなことも考えつつ↓を。

- 作者: 阿部公彦
- 出版社/メーカー: (株)南雲堂
- 発売日: 2008/11/01
- メディア: 単行本
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本書についてはこちらもご参照。
http://d.hatena.ne.jp/ks169/20081109
「速度の時代」と言われることもある20世紀この方の現代において、「速度への注目は、同時に速度へのたじろぎ、違和感、批判、恐怖をも含んだ多義的なものでもあった」(「はじめに」12頁)わけで、それゆえその「速度の文化へのアンチテーゼ」(14頁)として「ゆっくり」が肯定的に語られることがある(身近な例では「スローフード」とか)。しかしながら、その「ゆっくり」自体はあまり分析や批評の対象になっていないので、本書では映像や漫画、舞台芸術、そして詩における「ゆっくり」を論じてみようと。そのなかで例えば「速さ」と「ゆっくり」が常に二律背反的なものであるわけではないこともわかったりする。そのあたりの鍵になるのが副題にもある「残像」という言葉か。『英詩のわかり方』もそうだったけど、テクストを扱う手つきと語り口はさすが。
近代における「効率主義」や「富」の意識と「ゆっくり」の関わりについての第9章での議論など、緻密なテクスト読解に基づいたイデオロギー批評という感もあるけれど、本書全体としてはそういったことを声高に述べているわけではない。けど、「おわりに」でさらっと述べられているとおり、いま「ゆっくり」を考えることは「政治性」に関わることでもあるだろう。